小田セン。

好きなものは、好きなままでいられるように。

新幹線変形ロボ シンカリオンZ 第1話「新たなる出発進行!」感想&解説 ~持つ者と持たざる者~

劇場版ラストカットの「シンカリオンはまだまだ止まらない!」から1年と3か月…

その言葉通り、新たな主人公、新たな舞台、そして新たなシステム「Z合体」を引っ提げて、「シンカリオン」が帰ってきた!

オカルト好きの運転士と、シンカリオンに乗れない整備士。二人の主人公がもたらす物語は果たしてどんな道のりを示すのか…

新幹線変形ロボ シンカリオンZ」いまここに、出発進行!

 

・外野から見た「シンカリオン

――鉄道文化むらに、何故か新幹線車両が搬入された――
そんな情報を聞きつけ、ジャーナリスト志望の新多アユとその弟シンは、東京から遠路はるばる群馬県は横川にある「碓氷峠鉄道文化むら」を訪れる。
オカルト大好きであるシンは、この付近にある「丸山変電所」に宇宙人らしき人物の目撃されたと聞き、その真相を探るのが目的であり、姉の興味には乗り気じゃなかったのが、その新幹線が、巷で噂になっている巨大ロボット「テツドウダー」ではないかという憶測に、シンは興味をそそるのだった。

…まさかそんな「都市伝説」扱いされていたとは。

シンカリオンが「秘匿された存在」であるのは前作から描かれてましたが、物語後半や劇場版では、東京駅中央迎撃システムだったり、首都圏へ攻撃したブラックシンカリオン軍団だったり、上田アズサの投稿した動画だったりと、その存在が大なり小なり漏れる状況にあったのは多々あったので、まぁどこかしら存在が噂される可能性はありましたもんね。

劇中のニュースサイトに上がっていた写真は、解像度は極端に低いものの、21話のE5はやぶさを抱えて飛ぶ800つばめと、10話での砂防ダム前で戦うE6こまちと。いずれも捕縛フィールド外での戦いだったばかりに…

というか東海道500系E5系が走ってた時点で気づくべきだったのでは…アズサの動画はあの後削除されてたんだろうかもしかして(

 

・素人同然の横川支部

鉄道文化むらには何かがある…その噂は実は本当で、この施設の地下には、秘密組織、新幹線超進化研究所の横川支部が設けられていた。全国各地の鉄道博物館・鉄道施設に存在する、市井では「テツドウダー」と噂される、「シンカリオン」の開発・整備を行う施設の一つだ。
他の支部同様、横川支部のスタッフは普段は地上にある鉄道文化むらのスタッフをしているが、有事の際には指令室オペレーター及び整備士として、シンカリオンの運用をサポートする。
…のだが、司令長である十河サイジョウは終始オドオド。オペレーターも実戦は初めてでどこかしらぎこちなく、更に捕縛フィールドの展開も、長い間使われなかったからかシステム不調で展開できないという始末だった…

…大宮支部って凄かったんだなぁ。と言わざるを得ないほどの、横川支部の体たらく。

とはいえそもそも大宮支部シンカリオンの開発・運用の最前線であり、主要スタッフも全員が東大出身(苗字の由来から本庄アカギだけ早大出身)のエリート揃いで、更に以前の戦いで経験も豊富なため、一概に比較はできません。

また、十河司令長が「キトラルザス」という名称を覚えきれてないのを見るに、横川支部のスタッフはキトラルザスとの決戦よりも後にスカウトされたようにも見受けられます。となると横川支部はつい最近新設された支部なんでしょうかね?それなら素人同然なのも致し方ないなぁ…有事には文化むらを完全閉園するほどに人員が少ないのも、「辺境の基地」さを醸し出しています。

しかしまぁ、十河司令長のネーミングセンスよ…「ネギだるま」って安直な。これは出水司令長からプレッシャー受けながら名前つけてた本庄との差だというのか(

 

・持つものと持たざる者

「おぎのや」で出会った少年と、喋るロボット。そして通知が鳴るなりそそくさと鉄道文化むらに戻る少年と整備士たちに、シンは何かがあると追いかける。その先でシンが見たのは、先ほどの少年たちと、地下の広大な格納庫に佇むE5系新幹線の姿だった。
そして、その少年、碓氷アブトが新幹線に乗り込むのだが…起動しない。起動できない事に落胆するアブト。だが敵は待ってくれない。巨大怪物体は付近にいたジャーナリストの元へ向かっていたのだ。
そのジャーナリストはそちらもおぎのやでシンと出会ったお姉さん、明星アケノだった。お姉さんを助けられないのかよとアブトに詰め寄るシン。そう簡単じゃないと、喋るロボット、スマットが反論するのだが…そのどさくさで、シンの適合率が高い数値を示していたことが判明する。
偶然出会った素人に操縦させるなんて…と苦言するアブトに対し、シンは「可能性はゼロじゃない!」と叫ぶ。お姉さんを助けたい思いに、アブトは応え、シンを「シンカリオンZ E5はやぶさ」に乗せるのだった…

シンカリオンは「適合率」というバイタルパラメータが高い人間でないと操縦できない。そして適合率は子供であるほど高い傾向があり、特に「好きなもの」に強く反映される…というのは前作を見てきた者ならご存じではありますが、アブトが「起動できないほどに適合率が低い」というのはこれは…そう来たかぁって感じですね。

設定だと彼もハヤト同様鉄道愛があるようですが、自身も開発に携わったであろう大好きな鉄道のロボ、シンカリオンを動かすことも出来ないジレンマというのが…

一方のシンは大のオカルトマニア。E5に対しても「はやぶさだ…」と言ってる辺り、鉄道に対する知識は一般常識レベルだというのが伺えます。

鉄道好きなのに適合率が無いアブトと、鉄道に詳しくないけど適合率は高いシン。この違いはどこから…と考えると、やはりシンの「可能性はゼロじゃない!」がキーでしょうか。
シンのその口癖は、父、新多キボウの受け売りで、広大な宇宙には宇宙人がいる筈だし、信じていれば必ず会える。そうした僅かな希望を信じる事がシンの口癖には込められています。

一方でアブトは、シンの適合率が高くても乗せるのを躊躇っている辺り、若くして現実的な思考だなぁと…

「持つものと持たざる者」という対比はあらゆるアニメで見てきましたが、果たしてシンカリオンZではどう描いていくのか。今後が気になりますね…! 

 

・今回の鉄道ポイント:211系と信越本線

シンカリオンの魅力と言えば、やはり「鉄道」。前作では原鐡夫さんという鉄道監修担当がおり、たまに挟まれる鉄道系カットや演出は彼が監修していましたが、今作では原さんに加えもう一人追加されており、前作以上に鉄道系小ネタがちょくちょく挟まれそうで期待です。なにせ今作は在来線もテーマになりますしね…

なので、ここは鉄道に詳しい身として、毎回の感想に加えて、劇中に出た鉄道ネタの解説もして行こうと思います。シン君程度の鉄道知識しかない視聴者でもこれで安心(?)

 ・211系

211系は昭和末期から平成初期にかけて製造された電車で、今回冒頭で登場した車両は3000番台と呼ばれるタイプで、車内は通勤電車と同じロングシート、ドア脇に開閉ボタンが設けられているのが特徴です。劇中でもちゃんとドアボタンが描き込まれているところが芸コマですね。
かつてはグリーン車を繋げた10両・15両編成で宇都宮線高崎線を走っていましたが、新型車両の導入により撤退。現在は4両編成と6両編成に組み直されて、信越線や両毛線など、群馬エリアのローカル線で活躍しています。
…「日常。」の劇中に出てた107系電車は今はこれに置き換えられちゃったんですよねー。

 ・信越本線

そしてその信越線の"関東側の"終着駅が、劇中の舞台である、碓氷峠鉄道文化むらの最寄り駅、横川駅。
…なぜ「関東側」と銘打ったのか。それは、かつては横川から先も線路が伸びていたからなのです。

信越線は元は、群馬県高崎駅から長野県の長野駅を経て新潟県新潟駅へと至る「信越本線」という、特急列車も通る超大路線でした。
しかし、横川と次の駅の軽井沢の間には「碓氷峠」という交通の難所があり、その区間は道路も鉄道も坂の連続で、更に鉄道だと特性上坂に弱いため、長野方面の列車は横川で専用の機関車を後ろに繋いで峠越えを後押しして貰い、逆に高崎方面の列車は軽井沢で今度は前に連結した機関車が、急坂で暴走しないようブレーキ役を担っていました。
劇中でも出た「おぎのや」の名物「峠の釜めし」も、当時は機関車付け替えで長時間停車している間にホームで立ち売りされる…という販売形態がメインでした。

しかし、長野新幹線(現:北陸新幹線)が開業すると並行していた特急が廃止。機関車の連結・切り離しで色々と手間がかかる一方で、特急無き後のローカル利用者数がそんなに見込めない事から、峠越え区間である横川~軽井沢間だけ廃止となり、横川駅は単純なローカル線の終着駅へと変わりました。その後オープンした鉄道文化むらは、碓氷越えを後押しする機関車の基地だった場所を再利用した施設という訳です。

なお軽井沢から先は、軽井沢~篠ノ井と長野~妙高高原しなの鉄道へ、妙高高原直江津えちごトキめき鉄道へ、それぞれJRから第3セクターへ経営が移され、結果、JRの信越線は群馬・長野・新潟でそれぞれぶつ切りにバラけてる状態になって現在に至ります…

・そっちの聖地でもある

ところで今回は、鉄道以外でもニヤリと来る要素がありました。それは「車」。

劇中で出たおぎのや横川店(駅前にある横川本店でなく、付近の国道18号に面したドライブイン式の方)が映るシーン。その駐車場には白黒のAE86スプリンタートレノや、青いシルエイティ、赤いトヨタ86といった、様々な世代のスポーツカーがやけに細かく描かれています。

…というのも、実は碓氷峠は漫画及びアニメ「頭文字D」の舞台のひとつであり、劇中は青いシルエイティを駆る真子・沙雪コンビのホームコースとして、主人公・藤原拓海の愛車、AE86と激戦を繰り広げていました。
そういうのもあって、道路としての碓氷峠頭文字Dの「聖地」とも言える場所であり、劇中と同じ車を持ってるドライバーやファンが度々訪れたりするのです。

おぎのやでシンに絡んできた男達。アケノに「大好きな車に乗れなくなるかもねぇ~」と言われた時にふと気づきましたが、エンディングでは彼ら「走り屋」とクレジットされてて、やはりと思いましたね。見た目も須藤京一みたいなバンダナとかイツキみたいな唇とかでしたし。

そしてアケノが乗っていた赤いトヨタ86。赤い86というのも、同じ原作者で、頭文字Dから数十年後の未来が舞台の「MFゴースト」の主人公・片桐夏向のMFG出場マシン「トヨタ86GT」を彷彿とさせますね…!

鉄道の聖地でもあり、車の聖地でもある碓氷峠。だからこそ盛り込まれた小ネタでしょうけど、前作で第1話がエヴァっぽいと評されて庵野さんがコメント出したのを知ってると、なーんか今度はしげのさんからコメント来そうな気も…
あの人、パロディ同人誌である「電車でD」の存在を認知していて、いつぞやのコミケの時はビッグサイトから近いメガウェブで、頭文字D関連の展示に混じって電車でDの新刊の表紙絵も展示されたくらいなので…(

 

練度の浅い指令室。シンカリオンに乗れない整備士。そして鉄道に詳しくないオカルト少年…

前作以上に「ゼロからのスタート」が半端ない「シンカリオンZ」。

はたして彼らはこの先どのように成長し、待ち構えるであろう困難に立ち向かうのか。

そして再び現れた敵は宇宙人か、地底人か、はてまた…?

シンカリオン新世代、今作も楽しみにしていこうと思います。